2012年05月30日

「飛蚊症。その治療と手術」

飛蚊症と呼ばれる現象があります。
眼の前をあたかも虫が飛んでいるかのように感じる症状で、
これは多くの場合、生理的、すなわち病気ではありません。

そもそも飛蚊症とは眼球の中の大部分を占める、硝子体と呼ばれるゼリー状の物質に何らかの原因で“濁り”が生じ、明るいところを見たときにその濁りの影が網膜に映り、眼球の動きとともに揺れ動き、あたかも虫や糸くずなどの『浮遊物』が飛んでいるように見える現象です。この“濁り”には生理的な原因によるものと、病的な原因(網膜剥離や硝子体出血など)によるものがあります。
通常病気の場合は治療をし、生理的なものなら経過観察を行います。

しかし眼に病気はないのに、非常に強い飛蚊症が生じる場合があります。
通常このパターンの飛蚊症に対する治療法はありません。なぜなら「病気ではない」からです。
しかし外出に支障がでるなど、日常生活に影響が出るほどに飛蚊症が強い方に対してはどうすればよいのでしょうか。

日本の眼科では治療に消極的です。
まず飛蚊症は「病気でない」のですから保険適応ではありません。
積極的に治療をしようにも、効くかどうか分からない内服薬か、リスクの高い硝子体手術くらいしか選択肢がありません。
例え硝子体手術を行っても、他覚的に評価のできない飛蚊症が改善したのかどうかすら測りようが無いわけですから、眼科としては消極的にならざるを得ないもの仕方ないでしょう。

それと「飛蚊症」と思われている症状が、必ずしも眼から来るとは限らないのです。 
例えばある種の精神疾患では、存在しない様々なもの(黒い塊や小さい人など)が見えたりする事があります。つまり、視覚は眼だけでなく脳の働きが密接に関与しているのです。
疲れているときなどに飛蚊症が気になる人が多いのも、「飛蚊症を自覚する」働きが脳によってコントロールまたは強調されるからだと考えられます。
眼球に原因のある飛蚊症は、その原因の混濁を除去すれば改善するでしょう。ただそうではない原因不明の飛蚊症まで改善するか、全く不明です。
この辺の曖昧さや確定のなさが、日本の眼科医療が積極的に治療に参加できない理由の一つだと思います。

米国では、YAGレーザーを使った治療やFOVと略される飛蚊症の原因の硝子体混濁を選択的に切除する硝子体手術が行われています。十分なカウンセリングと非常に高額な手術費を支払い、自己責任で行われる治療です。これらの治療効果は比較的良く、症状が改善する方も多いですが、一部飛蚊症が残存したり新たな飛蚊症を生じる方もいらっしゃるようです。

どのような治療を受けるにせよ、今の「飛蚊症」がどこから来ているものかをしっかり見極める必要があります。
その上で積極的な治療をご希望されるのであれば、まずご来院ください。
出来ればその時に飛蚊症の状態が分かるように、スケッチを描いて持ってきて下さい。そのスケッチに一致する混濁が眼のなかにあれば、治療できる可能性が高くなると思います。



岡 義隆

 

 

posted by 眼科医ドクターのコラム at 00:00| Comment(0) | ドクター岡
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