2012年06月25日

ドクター美鈴のJSCRS学会報告

2012年6月15日から17日に行われた第27回日本白内障屈折矯正手術学会に参加してきました。
今回も様々な講演があり大変勉強になりました。
その中から、岡眼科でも行っている円錐角膜の治療、オルソケラトロジーの効果と安全性についての講演がありましたので、私見を加えながら報告したいと思います。

<円錐角膜治療について>
岡眼科では、円錐角膜に対し角膜クロスリンキング(CXL)と角膜内リング挿入手術(ICRs)を行っています。

今回インストラクションコースで円錐角膜の新しい治療としてCXL、角膜形成術、ICRsとCXLの併用手術、ケラフレックスの紹介がありました。

@角膜クロスリンキング(CXL)
角膜クロスリンキング(CXL)は、円錐角膜や角膜拡張症の進行を停止させる事が目的で行う治療です。

ドレスデンプロトコールに沿ったスタンダードなCXLでは、まず直径8mmの角膜上皮剥離を行います。
そしてリボフラビン点眼を30分行い、角膜実質内に十分浸透させます。そして紫外線の影響による角膜内皮細胞障害を避けるために、紫外線照射時の角膜実質厚が 400μm 以上あることを確認した上で、3mW/cm230分間(総量90mW/cm2)の紫外線照射を行います。

この操作でリボフラビンと紫外線が反応し、分子間で架橋形成することで角膜の強度が上がり、円錐角膜の進行を止める訳ですが、角膜上皮を剥離するため術後の疼痛や、感染のリスク、手術時間がかかることが問題となります。

その問題を解決するための新しい CXL方法として、角膜上皮を剥離せずに行うTransepithelialCXLと、短時間紫外線照射法の紹介がありました。
TransepithelialCXLは、上皮剥離をしないため、角膜厚が薄い症例でも照射が可能になります。
短時間強照射は、5mW/cm218分、9mW/cm210分、30mW/cm23分の方法が報告されていました。短時間照射により手術時間を短縮でき、患者さんの負担が軽減されます。

実はこのTransepithelialCXLと短時間紫外線照射法は、以前より岡眼科でも行っておりました。

TransepithelialCXLは 架橋される体積がやや小さくなるため、上皮を剥離する方法と比較して効果が弱くなる欠点があります。
また短時間紫外線照射法は、角膜実質細胞の減少の可能性や角膜内皮への影響が今後の課題となります。

今度の日本臨床眼科学会総会でお話しする予定なのですが、岡眼科の治療は、後ほどご紹介するICRsとの同時手術が、スタンダードな治療方法になっています。
この新しい手術方法は、TransepithelialCXLと短時間紫外線照射法とICRsの利点を最大限に利用し、安全性を高めたもので、現在考え得る最良の方法ではないかと考えております。


A角膜内リング(ICRs)
近年フェムトセカンドレーザー(イントラレース)の登場により、角膜内トンネルを安全に作成できるようになったため、ICRsは円錐角膜に対する外科的手術方法の第一選択になりつつあります。
ICRsには、コンタクトレンズ不耐症の改善や裸眼、矯正視力の改善、角膜移植を回避する、移植の時期を遅らせるなどの効果がありますが、ICRs後にCXLを併用することで、角膜形状の安定性が向上することが今回の学会で報告されていました。

BCXL とICRsの併用
ICRs後にCXLを行う方法だと手術を2回受けることになり、患者さんの負担も大きくなるため、岡眼科では現在ほとんど症例に、ICRsとTransepithelialCXLと短時間紫外線照射法の同時手術を行っています。
特にリボフラビン注入に関して、ICRs用の実質トンネル内にリボフラビンを注入する方法とTransepithelialCXLを組み合わせて行っています。
通常のCXL後と比較して術後の疼痛や炎症が少なく、岡眼科での6ヶ月程度の短期成績も良好で、感染症や角膜混濁、内皮減少等の合併症は認めていません。
現在術後の中期治療結果を検討しており、今年10月に行われる日本臨床眼科学会で報告する予定です。

C角膜形成術
CXLを補う方法として熱による角膜形成術(ケラフレックス)の講演がありました。ラジオ波でリング状に角膜実質のコラーゲンを収縮させ、角膜の形状を変える方法です。この術式はregressionが多いため、CXL併用を行うとのことでした。角膜形成術は、進行した円錐角膜への治療や全層角膜移植手術前の角膜非対称性の形状のコントロールに有用と報告されていますが、数ヶ月で元に戻ることがあるようで、しばらくは様子を見ることになりそうです。



<オルソケラトロジーについて>
今回の学会では、以前私がDrコラムに書いたオルソケラトロジーの世界情勢や効果、安全性についての講演がありました。

子供の眼軸長の変化量についてですが、眼鏡装用の場合は2年間で0.61mmであったのに対し、オルソケラトロジーでは0.39mmと報告されており、やはりオルソケラトロジーには近視抑制効果があることが確認されました。

また、遠視矯正のオルソケラトロジーの発表もあり、今後子供の弱視治療に応用されてくる可能性があります。

すでにヨーロッパや中国、台湾、韓国では近視の学童へのオルソケラトロジーの適応が確立されており、アジアでの適応は−6D以下、ヨーロッパでの適応は近視度数に制限なしとなっています。

現在の日本のガイドラインは現状に適合しておらず、今後見直しを行うべきだとの意見が出ていました。
しかし、何歳から装用するのがよいのか?中止したら近視は進行するのか?
何歳まで続けるのか?などまだ決まっていない点も多く、引き続き検討が必要と思われました。

安全性についてですが、オルソケラトロジー自体は安全ですが、レンズは通常のハードコンタクトレンズと形状が異なるため、矯正部分のカーブの部位に汚れや菌がたまりやすくなるため、洗浄が不十分だと感染症を起こす危険があると報告されました。
起因菌は緑膿菌やアカントアメーバが多く、もし感染を起こすと重篤な合併症を生じる場合があります。

処方の際にはご両親の協力が大変重要になりますので、岡眼科でもレンズの取り扱い、洗浄方法、定期的な健診などの指導について再検討を行い強化しました。

岡眼科での治療は最先端のその先を行っているものがたくさんあります。
安全性を最重視しながら新しい治療を導入する姿勢に、私自身も安心した次第です。



岡眼科クリニック 近藤美鈴

 

 

posted by 眼科医ドクターのコラム at 00:00| ドクター美鈴